「月光とピエロ」(堀口大学。日本図書センター。愛蔵版詩集シリーズ)より抜粋


  接吻への招待


 来り飲めかし、恋人よ!

 よろこびは今あふれたり、

 わが唇の酒杯(さかずき)に!


 来り飲めかし、恋人よ!

 そは君に夢を与へん!

 また君が愛は歌はん!


 そは君に夢を与へん!

 薔薇の夢、幸福の夢!

 「生(いのち)の夢」、「夢の夢」!


 また君が愛は歌はん!

 また君が生(せい)はめさめん!

 また君が血は叫ばん!


 恋人よ、来り飲めかし!

 今よろこびはあふれたり、

 わが唇の酒杯に!


※二つ目の「生」を「性」としたものがあるが、誤植か改稿かは不明

 
  なげき


 かなしからずや、ばらの花、

 花は散りても花の香は

 なおも名残に匂いけり。


 せつなからずや、人の恋、

 恋は失せても思ひ出は

 ながく心にのこりけり。